<ソ教連会長談話>
平成30年3月15日

日本ソーシャルワーク教育学校連盟は、社会福祉士及び精神保健福祉士養成校の90%以上が加盟する団体です。ソーシャルワーク教育学校に課せられた社会的使命に鑑み、社会福祉士及び精神保健福祉士養成教育の内容充実及び振興を図るとともに、ソーシャルワーク及び社会福祉に関する研究開発と知識の普及も努め、もって福祉の増進に寄与することを目的として設立されており、その目的達成を目指すための事業として、養成校の学生の国家試験合格率を上げるための様々な事業や、ソーシャルワーク専門職の重要性、ニーズ、職域の広がり、対象になる人々に対していかに的確にソーシャルワークによる支援を届け続けるかを目指して研究と実践教育を重ねてきました。
この度の第30回社会福祉士国家試験の合格基準点が99点とされたことについて、以下、談話を発表します。

1.第30回社会福祉士国家試験の合格基準点は150点満点中99点、合格率は30.2%とされた。この点数は合格基準(※1)として定められた60%の得点(90点)から+9点、前年度の合格基準点(86点)から+13点、合格基準点が公表されるようになった第15回〜第29回(15回分)の合格基準点の平均点(83.73点)から+15.27点という点数である。この合格基準点99点の正答率は66.0%である。今回の合格基準点は、上記のように合格基準に比しても、これまでの実績に比しても、著しく高い点数であると言える。合格基準点が公表されるようになって以来、合格基準である90点を超えた合格基準点となったのは、平成14年度の第15回(91点)、ただ1回のみである。

2.今回の国家試験問題は、『社会福祉士及び介護福祉士国家試験の在り方に関する検討会報告書』(平成20年12月26日)(※2)にある、必要とされる基本的な知識及び技術が網羅的に備わっていることを確認・評価するものとして位置付けられる「基本的な知識及び技術が網羅的に」問う問題が多く、養成に関わる多くの教員や関係者から、今回の国家試験問題は良問が多いと評価されているところである。不適切問題(による加点)がなく、良問が多かったのにも関わらず基準点が大きく上がったことについて、今回の合格基準点が、あたかも合格率から逆算して相対的に補正されたような印象を受ける。もしそうだとすると、報告書(※2)に「将来的には絶対基準により評価を行うことを視野に」とある指摘に逆行するものである。

3.合格基準は、当然ながら全ての受験生に周知されており、受験生はその定めから、正答率60%(90点)を越えることが一定の目標、目安とされて受験勉強が進められて、努力を重ねてきている。

4.また、今回は倍額以上に大幅に受験料が高くなったことは、受験者数が減少した理由の一つと考えられる。そのような中で受験した受験者は、「社会福祉士を取りたい」という意識、熱意がより強く、社会福祉士になるための学習もより熱心に行われていたと容易に想像できる。が、その努力の結果、これまでの試験では合格するラインをはるかに上回る点数をとったにも関わらず、予想に反する結果になってしまった受験生が多数発生した。このことにより受験する意欲が大きく減退してしまう懸念、将来の福祉を担う人材を確保し養成するにあたって大きなイメージダウンが発生することが懸念される。社会福祉士になって社会への貢献を目指す多くの若者や人々の意気を著しく削ぐものである。

5.福祉人材へのニーズは急増し、我が国でも地域共生社会の担い手として社会福祉士への期待が高まり、また様々な福祉以外の領域・職域でも、社会福祉士への求人・ニーズは広がり、高まっている(※3)。しかしながら、受験者数は多少の増減をしつつ横ばいであり、現在のソーシャルワークへのニーズに応えるための人員の確保が容易でない状況である。

6.ついては、合格基準点における合格基準からの補正の範囲は、合格基準を絶対基準として行うことを目指し、合格基準として定められた60%の得点(90点)を著しく上回ることのないようにすべきである。

                                                                                                                            以上
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本件担当
一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟事務局
(担当:小森)
メール jimukyoku【あっとまーく】jaswe.jp
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(※1) 社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士国家試験出題基準・合格基準(平成14年7月5日細則第1号)   

(社会福祉士国家試験出題基準・合格基準)
第2条 社会福祉士国家試験の出題基準及び合格基準は、別紙Tのとおりとする。

別紙T 
社会福祉士国家試験合格基準
次の2つの条件を満たした者を合格者とする。

1 問題の総得点の60%程度を基準として、問題の難易度で補正した点数以上の得点の者。
2 1を満たした者のうち、以下の18科目群(ただし、(注意2)に該当する者にあっては7科目群。)すべてにおいて得点があった者。
[1] 人体の構造と機能及び疾病
[2] 心理学理論と心理的支援
[3] 社会理論と社会システム
[4] 現代社会と福祉
[5] 地域福祉の理論と方法
[6] 福祉行財政と福祉計画
[7] 社会保障
[8] 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
[9] 低所得者に対する支援と生活保護制度
[10] 保健医療サービス
[11] 権利擁護と成年後見制度
[12] 社会調査の基礎
[13] 相談援助の基盤と専門職
[14] 相談援助の理論と方法
[15] 福祉サービスの組織と経営
[16] 高齢者に対する支援と介護保険制度
[17] 児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度
[18] 就労支援サービス、更生保護制度
(注意1) 配点は、1問1点の150点満点である。
(注意2) 社会福祉士及び介護福祉士法施行規則第5条の2の規定による試験科目の一部免除を受けた受験者にあっては、配点は、1問1点の67点満点である。

(※2) 平成20年12月26日 社会福祉士及び介護福祉士国家試験の在り方に関する検討会報告書「社会福祉士及び介護福祉士国家試験の今後の在り方について〜 20回の実績を踏まえた検証と新カリキュラムへの対応 〜」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/kokka_shiken/dl/01.pdf

p2 2.国家試験の基本的性格について 
○ 社会福祉士・介護福祉士国家試験は、基本的に、 @ 社会福祉士にあっては「相談援助」を実践する専門職として、 A 介護福祉士にあっては「介護」を実践する専門職として、 それぞれ必要とされる基本的な知識及び技術が網羅的に備わっていることを確 認・評価するものとして位置付けられる。 また、国家試験は、養成課程における教育内容の標準化を図るとともに、充 実を促進する機能も有している。 
○ こうした点を踏まえ、国家試験においては、専門職としての実践を行う上で 必要不可欠な知識及び技術に焦点を当てて出題すべきであり、実践の場面での 判断力を問う問題であることを意識しながら、問題作成が行われることが必要 である。
p5 4.合格基準等について
【合格基準について】
○ 現在、合格基準については「総得点の 60%程度を基準として、問題の難易度で補正した点数」となっており、絶対基準を原則とした上で、相対基準的な調整方法を採用している。
また、特定の科目の知識が欠落していることは好ましくないとの考え方から、得点のない科目(いわゆる「0点科目」)があった場合には、合計得点にかかわらず、不合格とする取扱いとしている。
○ 養成課程で習得すべき知識・技術を網羅的に備えているか否かを評価すると いう国家試験の基本的な性格にかんがみ、現在の合格基準の基本的な考え方は 妥当であると考えられるが、将来的には絶対基準により評価を行うことを視野に、今後、問題の質の改善と難易度のさらなる安定化を図る努力を行いつつ、 当面、問題の難易度による補正方法の改善について検討を行う必要がある。

(※3)
@ 社会福祉士の現状等(参考資料) 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000194332.pdf

A社会福祉士の職域として拡がりつつある領域の例
○教育機関(スクールソーシャルワーク関係)
学校教育法施行規則において、スクールソーシャルワーカーが明記され、文部科学省の報告書、SSWガイドラインでは、そのなり手として社会福祉士または精神保健福祉士有資格者が適当とされています。
○地域生活定着支援センター
各都道府県に配置されている同センターには、職員のうち1名以上社会福祉士または精神保健福祉士(同等者含む)を配置することとされています。
○都道府県社会福祉協議会
地域共生社会実現のため、市町村社会福祉協議会へのバックアップや調整を行う業務として、制度政策や、当該生活圏域を射程とする市町村社協への働きかけ、支援等を行うなどの業務に対応するため、社会福祉士が求められています。
○保護観察所
社会福祉士を配置することとはされていませんが、保護観察官になるための専門試験における選択領域のひとつに「福祉」があります。保護観察官が社会福祉士資格を取得するケースも多くあります。